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マインドフルネスとは
とはいえ、マインドフルネスがどんなものなのか、よくわからない人が現実には多いでしょう。ここではマインドフルネスの効果や活用ジャンルについて解説します。
世界が注目するマインドフルネス
マインドフルネスを社員のストレス対策やリーダー教育に取り入れる企業が増えています。グーグルやフェイスブック、インテル、マイクロソフトなど、アメリカの先進企業が最初に着目し、日本でも社員教育に取り入れる企業が増えてきました。アメリカ心理学会(APA)でも、5つのストレス対策の1つにマインドフルネスをあげています。
マインドフルネスをいち早く取り入れている企業には、情報産業や金融関係など、世界中から新しい情報をいち早く入手し、冷静かつ客観的な判断が要求されるところが多いようです。つまり、大きなストレスに直面しやすい職場ほど、マインドフルネスへの注目度が高くなっています。
瞑想に着目した経営者やスポーツ選手も数多く、稲盛和夫氏(京セラ創業者)や松下幸之助氏(パナソニック創業者)、井深大氏(ソニー創業者)が知られ、スティーブ・ジョブズ(アップル創業者)が禅に親しんだのはとくに有名です。
スポーツ選手では、イチロー選手(メジャーリーガー)やジョコビッチ選手(テニス)、マイケル・ジョーダン選手(バスケットボール)、長谷部誠選手(サッカー)などが知られています。
ハイ・ストレスのなかでも、自身の能力を発揮するための方法がマインドフルネスなのです。
このマインドフルネスはヨーガや禅など、東洋の瞑想法から発展してきたものです。瞑想といえば、もしかすると何だかあやしいと思う方も多いのではないでしょうか。
しかし、精神医学や心理学、脳科学など数多くの研究者が着目し、脳と心の研究のなかでも注目される分野となっています。脳科学的な研究では記憶にとって大切な海馬が増大する他、ストレスに反応する扁桃体の縮小などが確認されています。
このブームの端緒となったのはマインドフルネス認知療法(MBCT)を用いた「うつ病に対する再発予防」の効果でした。
それ以外にも、不安障害やPTSD、薬物依存、注意欠陥障害でも効果の検証が行われています。また、刑務所での再犯防止や少年院での矯正教育に活用されるなど、従来の瞑想法とはまったく異なる広がりをみせています。
マインドフルネスの効果とポイント
マインドフルネスを世界に広めたいちばんのキーパーソンは、マサチューセッツ大学医学部名誉教授のジョン・カバットジン(Jon Kabat-Zinn)博士です。マインドフルネスストレス低減法(MBSR)の創始者であり、マインドフルネスを「瞬間瞬間に立ち現れて来る体験に対して、判断をしないで、意図的に注意を払うことによって実現される気づきである」と、定義しました。
日常生活のなかで、私たちは様々な出来事を見聞きし、体験します。同じ体験をしても、人によってその解釈は異なります。ここに自分なりの価値判断が入ってくるのです。自分では客観的に判断しているように思っていても、物事を「色メガネ」で見ていることが多いものです。
その結果、判断を誤ったり、自分や他人を必要以上に責めてしまったりするといったことにもなります。そこからストレスも生まれてきます。そこで、自分なりの評価や判断をいったんは保留し、「今、ここ」での体験に注意を払うこと、あるがままに気づくことが大切だというわけです。
このマインドフルネスのトレーニングをすることで、たくさんの効果が期待できます。
マインドフルネス瞑想では、自分の体の状態や呼吸、心の動きを観察します。このことが、まず注意力や集中力のトレーニングとなります。そして、自分の願望や偏見にとらわれず、出来事をあるがままに観察する能力を養います。ミスや失敗の防止にも役立ちます。
また、自分をまるごと受け取ることで、自己肯定感や幸福感が高まります。自身の感情を否定せず、受け入れていくことが、逆に感情を客観的に観察することになり、感情に翻弄されにくくなるのです。
さらに、自分の考え方に固執することが減り、自由な発想力や創造性を高め、周囲とも調和しやすくなります。
マインドフルネスを生活に取り入れる
マインドフルネスのトレーニングのいちばんの基本となるのは、呼吸瞑想です。坐禅のように坐って、呼吸を観察します。さらに、周囲からの音や香り、体に感じる感覚、自分自身の心の動きに気づくトレーニングをします。おおげさに言えば、私たちが自分を取り囲む世界とどう接しているのかに気づく練習がマインドフルネスです。
このような坐る瞑想に加えて、日常生活のなかでも自分の動作や心の動きに気づく練習をします。こうした生活のなかでの実践をカバットジン博士はインフォーマルな瞑想と言っています。
そして、フォーマルな瞑想とインフォーマルな瞑想の両方がマインドフルネスには大切だというわけです。
日常生活のなかで、私たちは自分の行動にちゃんと気づいているわけではありません。そのほとんどは、実は自動的に行っています。
たとえば、何か他のことを考えながら食事をしていて、何を食べているのかにさえ気づいていないこともあるでしょう。誰かと話をしているときにも、別のことが気にかかって、うわの空になってしまうこともあるでしょう。これらは意識的にそうしているわけではありません。自動的です。
こうした自動操縦に気づくのがマインドフルネスです。誰かに挨拶をしたときに、相手がたまたま気づかないだけで、「自分は嫌われている」と考えてしまうこともあるかもしれません。
これらは、あくまで「そう考えた」「そう思った」だけのことです。考えたこと、想像したことは現実とは限りません。
たとえば、食事をゆっくり味わって食べる、丁寧に歯を磨く、足の感覚を感じながら散歩するといったちょっとした日常でのマインドフルネスから、自分の心が自動的に反応していることに気づくでしょう。
坐る瞑想をすることで、最初は気持ちが落ち着くのを感じるでしょう。次第に集中力も高まります。一方で、日常生活のなかで自動操縦になっている自分に気づく機会が増えてきます。日常での気づきと瞑想中での心の動きがつながっていることにも気づくでしょう。
こうした体験としての気づきが重なることで、少しずつ自分自身や周囲の人たちの反応が見えやすくなります。
仕事や家事、友人や知人との会話など、その時々の出来事に自動的に反応していた思考や感情に気づくことで、周囲の出来事に翻弄されにくい自分づくりができます。これはその時々に湧きあがってくる思考や感情の渦に飲み込まれないことでもあります。
小西喜朗(マインドフルネス実践会主宰、精神保健福祉士、産業カウンセラー)
マインドフルネス実践会
イラスト:山下正人
<参考書籍>
- ジョン・カバットジン著,春木豊 訳『マインドフルネスストレス低減法』(北大路書房)
- Z.V.シーガル、J.D.ティーズデール、マーク・ウィリアムズ著,越川房子訳『マインドフルネス認知療法:うつを予防する新しいアプローチ』(北大路書房)
- 熊野宏昭著『新世代の認知行動療法』(日本評論社)
- 貝谷久宣、熊野宏昭、越川房子編『マインドフルネス 基礎と実践』(日本評論社)