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マインドフルネスの実践
まずは姿勢を調えます。そして呼吸を調えることで、心も調ってきます。調えるというのはきっちりするというよりも、調和するといった意味で捉えたほうがよいでしょう。瞑想はあまり頑張り過ぎないのがコツです。体や呼吸、心の状態に気づくことで、心と体が調和していくイメージで、気楽に瞑想をしてください。
目は閉じても、開けていてもかまいませんが、最初は閉じたほうがやりやすいでしょう。慣れてくるに従い、目を開けたまま行うのがよいでしょう。
姿勢を調える
坐る瞑想では、坐禅のように足を組んで床に坐るのが基本となりますが、足を組むのが難しい場合には椅子に腰掛けてもかまいません。マインドフルネスでは、坐禅のように決まった姿勢でなければいけないわけではありませんが、背筋を伸ばし、重心がまっすぐに坐骨に落ちる安定した姿勢を保つことは大切です。
床に坐る場合は、体重を両膝とお尻の三点で支え、どっしりと坐ります。腰を立て、背筋を上に向かって伸ばします。両耳と両肩、両方の腰骨が垂直となり、鼻の下におヘソがくるのがまっすぐな姿勢です。
ただし、腰を反りすぎないようにしてください。最初に体を前屈させてから、ゆっくりと腰から体を起こすと、無理なく腰が立ちます。次に、体を左右にゆっくりと揺らしてから、その揺れを少しずつ小さくして、左右の坐骨に均等に体重がかかる姿勢をとります。
足の組み方は、片足だけを太腿に乗せる「半跏趺坐」でも、両方の足を床に落とす「達人坐」、あるいは胡座でもかまいません。ご自身が安定して坐れる組み方をしましょう。両手を左右に開いて、手のひらを上向きに、両膝の上に乗せます。
姿勢を保つことは、眠気を防ぐ効果もあります。また、同じ姿勢を保つことは体に起きてくるいろいろな感覚に気づくこと、つまり身体感覚を高める効果があります。
マインドフルネス瞑想では、ゆったり無理なく呼吸ができる姿勢が大切です。口を軽く結び、舌は上あごに着けて、軽く微笑むようにします。あごや肩の力を抜いて、ゆったり坐ります。
最初は少しつらいかもしれませんが、徐々に安定して坐れるようになるでしょう。足がしびれたり、痛くなったりするなど、どうしてもつらいときには、姿勢を変えてもかまいません。あまり無理はしすぎないでください。
呼吸瞑想から始める
①鼻先かお腹の一点に 鼻先の空気の出入り、またはお腹の膨らみ・縮みを観察する。自分が注意を集中しやすいほうどちらかに注意を向け、呼吸に気づきます。 |
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②気づきを全身へ広げる 呼吸とともに変化する体の感覚を全身へと広げます。 |
マインドフルネスの基本は呼吸瞑想です。このいちばんのポイントは呼吸をコントロールしないことです。私たちは普段、呼吸のことを意識していません。寝ているときも、起きているときも勝手に呼吸をしているでしょう。いつもの呼吸、体が求めてくるままの呼吸が自然呼吸です。
この自然呼吸を観察するのが呼吸瞑想です。呼吸に伴い、鼻から空気が出たり入ったりします。この空気の流れを鼻先で感じることができるでしょう。もしくは、呼吸とともにお腹が膨らんだり、縮んだりするのを感じます。
この呼吸に伴って生じてくる体の感覚の変化をただ感じることが、「今、ここ」の呼吸に気づくことであり、呼吸の観察です。マインドフルネスでは、鼻先かお腹のどちらでもかまいませんが、自分が集中しやすいほうを選んで、体の感覚に注意を集中します。
そして、吸っているときには吸っていることに気づき、吐いていときには、吐いていることに気づきます。呼吸の始まりから終わりまで、呼吸に伴う体の感覚をただ受け取ります。頑張って呼吸を感じるというよりは、体感として感じるままに受け取るようにします。
呼吸に注意を集中しようとしても、他のことを考えてしまったり、体の痛みや痒みを感じたりする等、いろいろな「雑念」が出てきます。この雑念を消そうとはしないでください。
雑念に気づいたら、ただそのことを確認し、思い浮かんだことに対して、良いとか悪いといった判断をせず、呼吸にやさしく注意を戻します。ポイントは「注意が呼吸からそれたことに気づくこと」「気づいたら呼吸に伴う体の感覚に注意を戻すこと」です。
この繰り返しが集中力や持続力のトレーニグとなります。集中できることは、他のことに気づかないことではありません。他のことが気になったとしても、注意を元に戻せることなのです。
こうして、ただただ呼吸を感じていると、次第に気持ちが落ち着いてきます。もちろん落ち着けないこともありますが、あまり拘ることなく、「そんなときもある」と気楽にかまえ、ただ呼吸を感じます。
この呼吸瞑想がマインドフルネスの基本であり、リラックスした状態で、頑張らずに集中力を維持する練習ともなります。
気づきの瞑想
呼吸瞑想で気持ちが落ち着いてきたら、気づきの対象を徐々に広げます。まずは、鼻先またはお腹など一点に集中していた感覚を体の他の部分にも広げます。呼吸に伴い、肩が上下するほか、胸や背中、腰なども微妙に変化します。感じられるだけ、全身の変化を受け取ります。
さらに、周囲の音や空気の流れ、体の感覚など、感じるまま、気づくままに受け取ります。このとき、外の音が聞こえたら、ただの音として感じとるようにしましょう。
たとえば、「何の音かな」と判断したり、その音から何かを考えたりしないようにします。もちろん自然に考えが次々に浮かぶこともありますが、そのことにも拘らないようにします。
何かを考えたときには、「〜と考えた」と、考えたことに気づきます。その出来事をただ受け取ります。考えや思いが浮かんだときは、そのことには固執せず、否定もせず、追いかけもしません。浮かんだときは、浮かぶままに気づき、消えるときは消えるままします。
このように気づきの対象を呼吸から次第に広げていきます。マインドフルネスでは、最終的には気づきの対象を限定しません。
最初は体の一点で呼吸に気づき、次第に全身へ、さらには、音や香り、光など、五感すべてに注意を広げ、そこで浮かんでは消えていく心の動きにも気づきます。
呼吸を背景に感じながらも、五感や心が受け取る様々な出来事に、ただ気づいている状態となります。
マインドフルネスの練習ステップは「凧あげ」を例にイメージするとわかりやすいでしょう。最初は呼吸という糸に集中しながら、凧をあげます。空高く凧があがるにつれ、呼吸の糸をそう意識しなくても、凧は安定して大空に浮かんでいるでしょう。しかし、糸はつながっています。視界は大きく開け、五感を通じ、周囲の出来事にも広く気づいています。
この「気づきの瞑想」では、心を解放し、気づきの対象を限定しません。自分を取り囲む世界と自分自身をあるがままに受け取る状態が、マインドフルネスの気づきなのです。そして、ここから得られる気づきが、周囲の世界や自分自身と調和する知恵となります。
マインドフルネスとは「あるがままの気づき」であり、呼吸からスタートします。概ね2〜3週間で「呼吸瞑想」のコツは何となくわかるでしょう。まず最初に気持ちが落ち着くことを感じるでしょう。
そして、ある程度まで呼吸に集中できるようになってから「気づきの瞑想」に入ります。呼吸を感じながら、気づきの範囲が広がるにつれて、揺れ動く自身の心の動きに気づきやすくなってきます。
個人差もありますが、概ね2〜3か月ほどで、周囲の出来事に自動的に反応する感情や思考にも気づくようになるでしょう。すぐに何か大きな変化を実感できるわけではありませんが、マインドフルネス瞑想を継続すれば、ストレスを受けても以前よりも影響を受けにくく、意外に冷静な自分に気づくときが必ずやってきます。
小西喜朗(マインドフルネス実践会主宰、精神保健福祉士、産業カウンセラー)
マインドフルネス実践会
イラスト:山下正人
<参考書籍>
- ジョン・カバットジン著,春木豊 訳『マインドフルネスストレス低減法』(北大路書房)
- Z.V.シーガル、J.D.ティーズデール、マーク・ウィリアムズ著,越川房子訳『マインドフルネス認知療法:うつを予防する新しいアプローチ』(北大路書房)
- 熊野宏昭著『新世代の認知行動療法』(日本評論社)
- 貝谷久宣、熊野宏昭、越川房子編『マインドフルネス 基礎と実践』(日本評論社)