高すぎる理想の代償

Vol.15
初心者マークを引っさげて

 

20年以上前のことでしょうか。

せっかく日本人として生まれたんだから、「一生に一度は経験したい」と思っていたことに挑戦する機会に恵まれました。そう、富士登山です。普段、山など登る習慣のない私。さすがに準備をせねばと、毎日せっせとウォーキングに励んだり、エスカレーターは意地でも使わなかったり、少しでも足腰を鍛える努力をしました。そのおかげか、何とか山頂まで登頂できましたが、その道中は悲惨そのもの。足取りはヨチヨチ、呼吸はゼーハー。無謀な挑戦だったなぁと後から一人反省会をしたのは言うまでもありません。

 

先日、ある若手社員と話していた時のことです。その方は昨年秋にこれまでの実績を認められて昇格し、管理職になったばかりでした。気合いが入っていたのは良かったのですが、徐々にプレッシャーに押しつぶされて体調不良に陥り、とうとう休職となってしまいました。3か月経ってやっと復帰の目途が立ったので、今後の働き方について一緒に考えていたのですが、話を聴いているとどうも理想が高すぎるように感じたのです。

 

会社は管理職を選ぶ際、社員の能力や資質をみて抜擢します。もちろんそこには大いなる期待が込められており、選ばれた社員もその期待がわかるからこそ、応えようと努力してくれます。しかし、最初から自分が思い描く理想の管理職を目指しても上手くいくわけがありません。なぜなら管理職経験のない、「初心者」なんですから。

 

この若手社員も、自分は管理職だからと肩に力が入り、あれもやらねば、これもやらねばとどんどん理想を追い求めてしまっていたようです。その上、できない人と思われたくなくて上司に相談できず、部下にも弱みを見せてはいけないと思い込み(本当は見せて良いんですけどね)、一人で抱え込んでしまうという悪循環に陥ってしまったようです。

 

「管理職初心者なのに、最初から富士山に登ろうとしていなかった?」と、ふと聞いてみたところ、ハッとした顔をして、「あ~そうかもしれません」との返事。何か腑に落ちたようで、「そりゃ無謀ですよね」と最後は笑って言ってくれたのが印象的でした。

 

 

頑張りたい気持ちはわかるし応援もしたい。本人としても、やってみませんかと声をかけてもらえると嬉しいし、あなたならできそうと思ってもらえるのも嬉しい。ただ、なんせ初心者。山登りでもリュックの中身は下に軽いもの、上に重いものを入れるとか、歩く時は歩幅を小さくとか、初心者は知りません。準備の段階から何が必要なのか、どういう風にすれば良いのか、経験者に教えてもらって、やっとスタートラインに立てるくらいなのだから、最初はもっと低い山を目指した方が成功しやすいのは当然です。大きな山を越えられると達成感は半端ないくらい感じられますが、いきなりはやっぱり無謀。私のようになってしまいます。

 

ただでさえ管理職というのはストレスを抱えやすい立場です。その上、初心者ともなると、その負担感の大きさは想像に難くありません。管理職研修等で知識とスキルを得させてあげるのはもちろんですが、それよりも、もっと肩の荷を下ろしてやっていいんだよ、気楽に挑戦しようよと声をかけてあげたいなぁと私なんかは思います。せっかく選んだ若手管理職。将来の会社を背負ってもらうためにも、大切に育てていきたいものですね。

 

【最後までお読みいただき、ありがとうございました。】

 

2022/02/23