「偶然性」から生まれるキャリア

Vol.4
キャリアというものは、その8割が「偶然性」によって決まると言われています

 

 

 

私が初めて「Aさん」とお会いしたのは大学4年生の就職活動中で、最初に働くことになった会社から呼び出しを受けて、いわゆる採用内定の通知をいただいた時です。

Aさんは私が新卒で入社した会社で、当時の人事部長でした。

今回は、私のキャリアに大きな影響を与えてくれたAさんについてお話しします。

 

 

<198×年11月某社会議室にて>

「おめでとう!我が社は心澤君の採用を内定したよ。これで就職活動を終了出来るね。他に内定をもらっている会社には返事が遅いと迷惑が掛かるので、すぐにお断りの連絡をしなさい。

それと大事なことだけど、来年春まで最後の学生生活をきちんと締めくくるんだぞ!」とマシンガンのように言葉を打ち込まれました。

 

「返事もしていないのに何という強引さ・・・」

当時私は就職活動に苦戦はしていたものの、この日までに一応他2社の内定をいただいており、3社のうちどこに就職するか心の中では迷っていました。が・・・

 

 

「はっ、は、はい。ありがとうございました。他の会社へはすぐに電話しますぅ・・」

と一つ返事で答えていた社会人となる前の私でした。

面接のときから、優柔不断なところを見透かされていたのでしょうか。

 

 

<我が永遠の師>
初任の配属先は人事部となり、Aさんは社会人最初のボスとなりました。
私は出来の悪い学生でしたが、ありがたく強引に採用していただいて始まったご縁は、この日から数十年も続くことになり、親分肌のAさんはある時は父親のようにまたある時は兄貴のように私を育ててくれました。

 

振り返れば仕事上で辛いこともありましたが、思い出のほとんどは楽しかったことであふれていて、そのおかげでここまでのところ、彩り豊かなビジネスマン人生を送ることが出来ています。

 

 

入社して10年近く経過したある酒席で、ぼそっと「心澤さんが他の会社へ行っていれば良かったと後悔させないためにも、良い会社にしていかなきゃならないと思って頑張っているんだよ」と・・・

Aさんは誰に対しても「さん」付けで呼んで、相手の年令など関係なく敬意を払い、聞く人のこころを開いていく方でした。

 

昭和の浪花節だと笑われるかもしれませんが、これには心底泣けましたね。そんなにも採用した人間を大切にしてくれるなんて思ってもいなかったので。

 

 

教えていただいたことは数知れず。背中から学んだ生き方、考え方、仕事へのスタンス、口癖、果ては趣味まで「マネする」ところから始まって、後輩に「Aさんはこんなことを言っておられたよ」と話したり、「こんな時Aさんならどうするだろう」と自問自答したり。

 

 

 

今春、大恩人のAさんをお見送りしました。

身内のような言い方で恐縮ですが、86年間の素晴らしい人生でした。

 

 

私のキャリアは、半ば強引に入社させられた「出来事」と、最初の上司であるAさんとの「出会い」という二つの「偶然性」で始まりましたが、今では幸せな日々を過ごさせていただいていることへの「必然」として受け止めています。

 

そして、今度は自分が、誰かのキャリアに良い影響を与えられるような存在でありたいと願って、一日一日を過ごしています。

 

【最後までお読みいただき、ありがとうございました】

 

 

2021/08/18